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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)2310号 判決 1996年12月05日

主文

一1  原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

二  本件附帯控訴(当審で拡張した請求を含めて)を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求めた裁判

一  平成七年(ネ)第二三一〇号事件

1 控訴人株式会社紀陽銀行(以下「控訴人銀行」という。)

(一) 原判決中、控訴人銀行敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人の控訴人銀行に対する請求を棄却する。

(三) 控訴人銀行と被控訴人との間に生じた訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2 被控訴人

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人銀行の負担とする。

二  平成七年(ネ)第二三四九号事件

1 控訴人アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(以下「控訴人アリコ」という。)

(一) 原判決中、控訴人アリコ敗訴部分を取り消す。

(二) 被控訴人の控訴人アリコに対する請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2 被控訴人

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人アリコの負担とする。

三  平成八年(ネ)第一九七〇号事件

1 被控訴人

(一) 原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは、各自、被控訴人に対し、金一一八九万二〇三三円及びこれに対する平成元年一月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。(請求の拡張)

(二) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人らの負担とする。

(三) (一)につき仮執行の宣言

2 控訴人ら

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

ただし、次のとおり付加訂正する。

一  原判決二枚目裏五行目から六行目にかけての「訴状送達の翌日」を「被控訴人と控訴人銀行とが金銭消費貸借を締結した日であり、かつ、被控訴人と控訴人アリコとが変額保険契約を締結した日である平成元年一月七日」と改め、同四枚目表六行目の「甲三、」の次に「七の1、2、八、九、」を加え、同一〇行目の「支払われた保険金の」を「保険料のうち、将来の保険金支払いのための」と改め、同六枚目表六行目の「二八、」の次に「三一、三二、三四、」を、同六枚目裏四行目の「甲野」の次に「(同人は、昭和四三年大阪府立工業高校機械科を卒業し、数年間クーラーの設置・修理の仕事をした後、敷物の製造・加工の仕事に携わって二〇年以上になるもので、昭和六二年に被控訴人を設立したが、被控訴人は売り上げは年間約三六〇〇万円程度、従業員は一二名いるものの、正社員は本件保険加入当時甲野と丙川のみで、他はパートの従業員という、典型的な零細事業所にすぎず、甲野は工場労働者と変わらない典型的な町工場主であって、株が上がり下がりすることは、一般知識としてはあるが、株で儲けるための知識はないし、投機的な投資などしたこともなかった。)」を、同八枚目表一行目の「乙山は」の次に「(なお、同人は、昭和六三年一〇月一日、控訴人アリコに入社し、初期三か月研修(通算合計一五日間、四五単位、六〇時間)のうち試験前研修(最低八日間、二四単位、三二時間)を受講した後、同月二七日に生命保険初級課程試験に合格し(なお、初期三か月研修のうち残りの部分についてはその後に受講している。)、平成元年四月一一日には所定の試験全研修(二日間、一〇時間以上)を受講した後、変額保険販売資格試験に合格し、同月二五日に変額保険販売資格の登録を行い、さらに、同年八月一日には生命保険募集人の中級専門課程試験に合格していて、生命保険募集人として十分な教育を受け、かつ、本件変額保険の説明時以前に変額保険の販売資格を取得している。)」をそれぞれ加え、同一二枚目表一一行目を「本件では、被控訴人には自己責任の原則が働くべき適正な情報が与えられていなかったのであり、かつ、控訴人らと被控訴人との彼我の社会的立場の非対称性・圧倒的な力の差からも、損害賠償に際し、当事者間の公平・均衡をはかる過失相殺の法理は働くべきでないし、万一働くとしても、控訴人らの落ち度に比べ、被控訴人の落ち度は極めて僅かな落ち度と評価すべきであるので、大幅な過失相殺は否定されるべきである。」と改める。

第三  争点に対する判断

一  争点1、2について

1 被控訴人が控訴人アリコと本件変額保険契約を締結し、控訴人銀行から本件融資を受けるに至った経緯等は、原判決一二枚目裏三行目冒頭から同一九枚目裏六行目末尾記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加訂正する。

(一) 原判決一二枚目裏五行目の「二、三、」の次に「六の1ないし5、」を、同行目の「三の1ないし7、」の次に「四ないし六、七及び八の各1、2、九の1ないし4、一〇、一一、」を加え、同八行目の「原告の」を「被控訴人は、昭和六二年三月、甲野によって設立された資本金三〇〇万円、従業員一二名(そのうち、正社員は甲野及び丙川の二名で、他はパートである。)、年間の売上が約三六〇〇万円の有限会社であり、各種敷物の製造、販売、補修、加工等を業としている。被控訴人の代表者の甲野は、昭和二五年一月四日生まれの男性であり、昭和四三年に大阪府立の工業高校を卒業し、会社員として、数年間クーラーの設置や修理の仕事をした後、退社して、織物の製造、販売業に従事し、昭和六二年三月、右のとおり、被控訴人を設立して、代表者に就任し、右会社の経営に当たってきており、銀行とも当座、預金、借入等の取引を継続してきた。甲野は、株式投資をしたことはなかったが、株については、市場があり、上がれば得をし、下がれば損をすることはわかっていた。被控訴人の、」と、同九行目の「その担当が」を「右各銀行と、当座、預金、借入等の取引を継続してきた。控訴人銀行の担当者は、」と、同一一行目の「関係であった」を「関係にあり、本件融資までの間に、被控訴人の代表者である甲野とは五回位会っていた。」と、同一三枚目表二行目の「乙山が」を「乙山は(同人は、昭和六三年一〇月一日、控訴人アリコに入社し、初期三か月研修(通算合計一五日間、四五単位、六〇時間)のうち試験前研修(最低八日間、二四単位、三二時間)を受講した後、同月二七日に生命保険初級課程試験に合格し(なお、初期三か月研修のうち残りの部分についてはその後に受講している。)、平成元年四月一一日には所定の試験全研修(二日間、一〇時間以上)を受講した後、変額保険販売資格試験に合格し、同月二五日に変額保険販売資格の登録を行い、さらに、同年八月一日には生命保険募集人の中級専門課程試験に合格した。)」とそれぞれ改め、同四行目の「いなかった。)、」の次に「当時、銀行業務のサービスとして、居宅や工場用地を希望している顧客に不動産を紹介する等していたことから、その一環として、また、変額保険については、殆どの場合、顧客に融資ができるので、そのことも念頭にあって、」を加え、同五行目の「乙山とは」から同一五枚目表五行目末尾までを次のとおり改める。

「乙山は、倉本と一緒に一〇数社を回り、そのうち二件、変額保険を成約した。

倉本は、平成元年六月頃、他の用件で、甲野に電話した時、右のとおりの銀行のサービスの一環として、甲野に対し「会社が契約して、社長や従業員にかける生命保険がある。保険料は一括払いであるが、控訴人銀行が融資することができる。興味があるようであれば、保険会社の人を紹介する。」旨話したところ、甲野は興味を示したので、保険会社の者を甲野のもとに連れていくこととした。

(3) 倉本は、乙山に対して変額保険の話をしてほしいところがあるとの連絡をした。乙山は、約一週間後に、控訴人銀行鳳支店に行き、倉本が話していた所に同人と一緒に行ったが、同所では、成約しなかったので、もう一件行こうということになり、倉本とともに、被控訴人の事務所を訪れ、近くにあった喫茶店で、話をした。

その席で、乙山は、甲野に対し、変額保険はインフレに対応した保険であること、変額保険は株式・債権で運用し、運用益が出れば客に還元すること、しかし、株式投資をするので損することもあること、本件変額保険は、法人契約であるので、銀行に月々支払う金利が経費として控除できること、解約返戻金が融資額元本より多くなるとその差額を退職金に使える等話し、また、甲野に対し、控訴人アリコ作成のパンフレットと同一内容のもの、以下「本件パンフレット」という。)を示し、同パンフレットにあるカーブの絵を使い、変動はあるが、長いカーブで見ると、全体的に右上がりになっていくので、そういう意味でインフレ対策となること、しかし、短期間で見れば、運用実績が落ち込むこともあるので、解約返戻金は払込保険料よりも減ることもあること、万一、死亡したときは基本とプラスアルファの金を支払うこと、運用が下がっても、万一死亡したときは、最初の保険金額は保証されること、途中で解約の際は、運用が右上がりのときは、全体の保険金額に対応した解約返戻金を支払うこと、運用がうまく行かなかったときは、減った部分に対した分に対する解約返戻金は支払えないこと等の説明をし、変額保険の内容等を説明したパンフレットを甲野に渡した。

変額保険についての乙山の説明が終わった後、倉本は、甲野に対し「一括払いの保険料は控訴人銀行が貸すこと、レートは長期プライムレートプラス〇・二パーセントであること(右レートは控訴人銀行本店のガイドラインであった。)、元金は毎月返済しても、据え置いてもよいこと、金利は会社の損金で処理できるので、メリットがある。」等融資の話をし、倉本が甲野に対し、いくらぐらい返済できるかを聞いたところ、甲野は、一〇万円くらいなら返済できると言ったので、倉本において逆算し、二〇〇〇万円程度なら融資できると話した。また、控訴人銀行では、返済期限については社内的に一〇年という限度があったので、甲野と話して、期限いっぱいということになった。

甲野は、右乙山の説明を聞き、また変額保険は取引銀行の倉本が持ち込んだ話でもあったことから、主に従業員の退職金の積立のために、一時払いの保険料を控訴人銀行から融資を受けて、変額保険に加入することとし、右のとおり、倉本に試算してもらった結果、銀行に対する返済が可能な範囲で本件変額保険の保険料を約二〇〇〇万円とすることとした。そして、乙山から、本件変額保険の加入のために、甲野に対する医師の診断が必要と言われ、診断日を決めて、その日の話は約三〇分くらいで終わった。

なお、倉本は、当時、変額保険については、一応の概要を知っている程度で、人に説明できるほど詳しくはなく、また、銀行員は保険の勧誘等をしてはいけないと言われていたので、甲野に変額保険についての話をしなかったが、乙山が甲野に対し、本件パンフレットを示し、「一括払いの保険料を控訴人アリコが株式で運用する。保険金及び解約返戻金が運用に応じて変動する。リスクが上下する。」等変額保険の話をしているのを、そばで聞いていて、解約返戻金が、短期的には減ったり増えたりして、長期的には増える方向に行くと考えていた。」

(二) 同一五枚目表六行目の「本件パンフレットには」を「本件パンフレットは、カラー印刷により、変額保険の内容や仕組等を青、赤、黒の色彩や活字のポイントを代えて表示し、図や表によるシミュレーションを記載したものであり」と改め、同一一行目の「生命保険です。」の次に「(なお、その下欄には、右よりも小さい活字で、「特別勘定とは……変額保険にかかわる資産の管理・運用を行うもので、他の保険種類にかかわる資産とは区別し、独立して管理・運用を行います。*運用対象……上場株式、公社債等の有価証券を主体とした運用を行うこととし、具体的投資対象は国内外の経済、金融情勢、株式、公社債市場の動向等を勘案して決定します。*ご契約表は、経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」と記載されている。)」を、同枚目裏六行目の「変動します」の次に「(なお、その下欄には、前期同様、小さい活字で「運用実績とは……特別勘定の資産の運用実績を指します。詳しくは右面の運用実績例表をご覧下さい。」と記載されている。)」をそれぞれ加え、同七行目の「また、」を「そして、運用実績例として、」と改め、同一六枚目表一行目の「記載してあり、」の次に「右記載によれば、」を加え、同三行目の「常に減額されるように読める」を「常に減額となる。また、右図と表との間には「[変額保険の仕組]この保険は運用実績に応じて保険金額が変動します。したがって上図[例1][例2]のように保険金額は上下し、一定ではありません。変額保険は保険金額・返戻金額が変動するしくみの保険ですが、保険の内容、特質をご理解いただくために下記例表を掲載しています。この例表の数値は、例示の運用実績が保険期間中一定でそのまま推移したものと仮定して計算したものであり確定数値ではありません。実際のお受取額は、運用実績により変動(上下)しますので、将来のお支払額をお約束するものではありません。」と記載されている。」と改め、同三行目の「もっとも」から同九行目の「読み取れない。」までと、同枚目裏四行目冒頭から同一七枚目表一行目末尾までをそれぞれ削除し、同一六枚目表一〇行目の「「」の次に「解約に関する御注意……」を加え、同一七枚目表二行目から同一九枚目表五行目までの順番号「(6)」ないし「(11)」を「(5)」ないし「(10)」とそれぞれ改め、同一七枚目表一〇行目の「の当日」を「が終わった後、その日、倉本及び甲野とともに、被控訴人事務所近くの喫茶店に戻り、そこに、丙川を呼んでもらい」と、同一七枚目裏九行目の「あるなど」から同一〇行目の「をしていた」までを「あった」と、同一八枚目表四行目の「をしている」から同五行目の「なっていた」までを「していた」とそれぞれ改め、同一八枚目裏一行目の「ついて」の次に「(なお、倉本は、甲野に対し、保証は阪和信用保証がすること、保険金には質権を設定する旨説明した。)」を加え、同六行目の「右写しには」から同一九枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。

「右写しには、解約返戻金額表が記載されており、下欄には、その説明として、「上記表は、特別勘定資産の運用実績が四・五パーセントとした場合の例を表示しています。実際の解約返戻金額は、特別勘定資産の運用実績または契約内容の変更、保険料率の改訂が生じた場合などにより、上記金額から増減することがあります。従って、将来のお支払額をお約束するものではありません。」と記載されていた。

控訴人アリコは、すべての変額保険契約者に対し、毎年各変額保険の契約応答日毎に当該変額保険の右応答日現在の保険金、解約返戻金、当該一年間の各月初日毎に計算される毎月の変額保険金額等を記載した「変額保険のご契約内容のお知らせ」と題する書面を送付し(被控訴人に対しては、乙B七及び八の各1、2)、また毎年三月末の事業年度末に当該事業年度の末尾における特別勘定資産全体の内訳やその事業年度における特別勘定の運用収支状況等を記載した「変額保険(特別勘定)決算のお知らせ」と題する書面(乙B九の1ないし4)を送付していた。」

(三) 同一九枚目表一〇行目の「このため」から同一一行目の「誤解をしていた」を「このことから」と改め、までと、同裏一行目の「紛争後は」から同六行目末尾までを削除する。

2(一) 被控訴人は、前記第二の三1(被控訴人の主張)(一)のとおり主張し、被控訴人代表者及び同人作成の陳述書には、これに沿う供述及び記載がある。しかしながら、<1>乙山(同人が変額保険の販売資格を有していたことは前記1(2)認定のとおりである。)が甲野に対し本件パンフレットを示して変額保険の説明をし、右パンフレットを甲野に交付したこと(これについては、甲野も自認するところである(被控訴人代表者)、<2>甲野は、変額保険が株式で運用されることや株式には市場があり、上がれば得をし、下がれば損をすることを知っていたこと(被控訴人代表者)、<3>本件パンフレットの記載内容は前記1(4)のとおりであって、同記載を読めば、変額保険にはリスクのあることは理解し得たこと(前記1(一)のとおりの甲野の属性からして、甲野はこれを理解し得たということができる。)、<4>この点に関し、甲野は「元本割れはしない、儲かる。」との乙山や倉本の言葉から、根拠もなく、儲かると思ったと供述しているが、右のとおりの甲野の属性等に照らして、右供述はにわかに措信し難いこと、<5>甲野に対する乙山の変額保険に関する説明を聞いていた倉本の理解等は前記1(3)のとおりであること、以上に加えて、証人乙山及び同倉本の各証言とも対比すれば、被控訴人代表者の供述及び甲一の記載中、前掲記の部分はにわかに採用し難いというべきである(なお、被控訴人代表者の供述中及び甲一の記載中には、甲野は、本件変額保険の締結に当たり、契約締結後一年で解約すると明示の意思表示をし、これを前提に一年後の保険利益を考慮に入れて、右保険を締結した旨の供述及び記載があるが、前記認定の、控訴人銀行から被控訴人に対する二〇〇〇万円融資の経緯並びに乙山及び倉本の各供述に照らすと、一年後の解約に関する被控訴人代表者の供述部分及び甲一の記載部分は、到底信用することができない。)。

(二) また、被控訴人は、前記第二の三2(被控訴人の主張)(一)のとおり主張し、被控訴人代表者及び甲一にはこれに沿う供述及び記載がある。しかしながら、前記1(2)、(3)認定のとおり、倉本は、もともと銀行員として、保険の勧誘等をしてはいけないと言われていた上、変額保険については、一応の概要を知っていただけで、人に説明できるほど詳しくなかったこと、倉本は、甲野に対し、他の用件のついでに、銀行の顧客に対するサービスの一環として、変額保険の話をしたことが契機となったことに加えて、右(一)説示をも総合すれば、右被控訴人代表者の供述及び甲一の記載部分はにわかに採用することができない。

3 そこで、争点1、2について判断する。

(一) 乙山の説明義務違反について

(1) 金融商品を販売しようとする業者の説明義務等については、原判決二四枚目表一行目冒頭末尾までを引用する。ただし、原判決二四枚目表四行目の「少なくなこと」を「少なくないこと」と、同裏一行目の「新しい」から同六行目末尾までを「業者において、顧客の年齢、学歴、経歴、地位、商品知識等の属性に応じて、顧客に対し、当該金融商品の性格や基本的仕組み及びその商品が危険性を有する場合にはその危険性を理解し認識するのに必要な程度の説明がなされたか否かの観点から判断されるべきであり、顧客において、その性格や基本的仕組み及び危険性等について理解し認識していないこと、あるいは、これらを誤解していることを、業者において知っていたか、あるいは容易に知り得るような特段の事情のない限り、それ以上に詳細に右危険性等について説明する義務までは負わないというのが相当である。」とそれぞれ改める。

(2) これを本件についてみると、前記第二の二のとおり、変額保険は、定額保険とは異なり、支払われた保険料の多くは、特別勘定として株式等で運用され、運用実績に応じて保険金額、解約返戻金が変動するものであり(ただし、加入者保護のため、死亡、重度障害保険金については、基本保険金として最低保証されている。)、したがって、運用実績によっては、満期保険金と解約返戻金が、払込保険料よりも少なくなる危険性がある上、一時払保険料を借入金でまかなった場合、運用実績によっては、解約返戻金の額が右借入金元利を下回る危険性がある(右の場合、運用実績による運用利益から借入利息を除いたものが実際の利益になる関係上、運用実績によっては、右のような事態が生じる危険性がある。)ところ、乙山(同人は、前記1(2)のとおり、変額保険販売員の資格を有していた。)は、甲野に対し、変額保険は株式・債権で運用するものであるから、運用実績により、解約返戻金の額にも変動があり、場合によっては払込保険料よりも減ることがある等、前記1(3)のとおり変額保険の内容や仕組み及び危険性を説明し、甲野に対し、控訴人アリコ発行のパンフレット(乙B四と同一のものと推認する。)を交付したこと、右パンフレットには同(4)のとおりの記載がされていたこと、甲野は、同(1)のとおりの属性を有していること等の前記1認定事実に照らせば、乙山は、甲野に対し、甲野の属性に応じて、変額保険の内容や基本的仕組み及び危険性を理解し認識するのに必要な程度の説明をしたものであり、かつ、甲野においてもこれを理解し認識し得たと解するのが相当である(敷衍するに、変額保険が株式で運用されること、株式には市場があり、上がれば得をし、下がれば損をすることを知っていたことは甲野の自認するところである上、乙山の説明や本件パンフレットの閲読により(甲野の属性からして、これを理解し得たというべきことは前記説示のとおりである。)、運用実績いかんによっては(ちなみに、支払われた保険料の運用は控訴人アリコにおいて行うから、甲野に株式投資の経験を必要としたものということはできない。)、満期保険金や解約返戻金が払込保険料を下回ることになる危険性があることを理解し認識し得たというべきである。また、甲野の被控訴人の経営者としての地位、継続的な銀行取引の経験、年齢、経歴等前記認定の属性に照らせば、本件変額保険の一時払保険料を控訴人銀行からの借入金でまかなった場合、運用実績による運用利益から借入利息を除いたものが実際に利益になる関係上、運用実績によっては、満期保険金や解約返戻金の額が右借入金元利を下回る危険性があり、かつ、乙山や倉本から、この点に関する具体的な説明がされなかったとしても、前記認定にかかる乙山や倉本の説明や本件パンフレットの閲読により、右危険性を認識し得たというのが相当である。)。

したがって、本件変額保険について乙山にその説明義務違反があったとの被控訴人の主張は採用できない。

(二) 倉本の説明義務違反について

前記1認定のとおり、倉本は、銀行員としての顧客サービスの一環として、甲野に対し、変額保険の話をして、控訴人アリコの乙山を紹介し、控訴人銀行において一時払保険料を甲野に融資したものであるところ、保険契約と融資契約とは法律上別個のものである上、控訴人銀行が変額保険募集の資格を有していたとは認め難いから(ちなみに、保取法九条によれば、損害保険会社の役員、使用人または同法四条二項の規定により登録された整形保険募集人もしくは損害保険代理店でないものは、保険の募集を行うことができないとされている。)、銀行員である倉本(同人は、銀行員は保険の勧誘等をしてはいけないと言われていた。)には顧客である甲野に対して本件変額保険の説明義務があったということはできず、かつ、前記1認定にかかる倉本と乙山及び甲野の関係や倉本の本件変額保険への関与の程度等を考慮すれば、倉本(及び控訴人銀行)には、前記第二の三2(被控訴人の主張)(四)において、被控訴人が主張するような義務があり、かつ、これに違反したものということはできない。

したがって、本件変額保険について、倉本の説明義務違反をいう被控訴人の主張は失当である。

二  右のとおり、乙山及び倉本には被控訴人に対する説明義務違反があったということはできないから、右義務違反があったことを前提とする被控訴人の本件請求はいずれも理由がない。

第四  結論

以上の次第で、被控訴人の控訴人らに対する本件請求はいずれも理由がないものとして、棄却されるべきであるから、本件控訴はいずれも理由があり、本件附帯控訴は理由がない。

よって、本件各控訴に基づき、原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消して、被控訴人の請求をいずれも棄却し、本件附帯控訴は(当審で拡張した請求を含めて)理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田畑 豊 裁判官 神吉正則 裁判官 奥田哲也)

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